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最高裁判所第二小法廷 平成12年(あ)840号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人針谷紘一の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

なお、所論にかんがみ、職権によって判断する。

原判決の認定及び記録によると、本件の事実関係は、次のとおりである。

1  株式会社aは、平成四年一二月ころ、その所有する大阪市中央区所在の宅地一二六・一五平方メートル(以下「本件土地」という。)を、転貸を禁止し、直ちに撤去可能な屋台営業だけを認めるとの約定で、Cに無償で貸し渡した。

2 Cは、そのころ、本件土地上に、(1) 約三六本の鉄パイプをアスファルト面に穴を開けて差し込み、これにねじ締め式器具を使って、長さ約三メートルの鉄パイプを縦につないで支柱とし、(2) 支柱の上部、下部及び高さ約一・五メートルの部分に、右器具を使って鉄パイプを横に渡し、(3) 以上の骨組みの上面に、鉄パイプを網の目状に配して右器具でつなぎ、その上に角材を載せて針金で固定した上、トタンの波板等をくぎ付けして屋根にし、(4) 側面にビニールシートを垂らし鉄パイプにひもで結び付けて壁面とするという方法により、L字型の仮設の店舗を構築した。Cは、その後、さらに、(1) 約四本の鉄パイプを埋設してセメントで固定し、(2) 右パイプの上部から既存の鉄パイプに鉄パイプを渡して溶接して固定し、(3) その上部に塩化ビニール樹脂の波板を張って屋根にし、側面にビニールシートを垂らして壁面とするという方法により、これをく形にするための増築を加えた。

3  Cは、前記施設(以下「本件施設」という。)で飲食業を営んでいたが、平成六年六月ころ、Dに対し、本件土地を転貸や直ちに撤去できる屋台以外の営業が禁止されていることを伝えて賃貸し、本件土地及び本件施設を引き渡した。

4  Dもまた、本件施設で飲食業を営んでいたが、同年一一月ころ、被告人に対し、本件土地を転貸や直ぐ撤去できる屋台以外の営業が禁止されていることを伝えて賃貸し、本件土地及び本件施設を引き渡した。

5 被告人は、同月下旬ころから同年一二月一日ころにかけて、(1) 本件施設の側面の鉄パイプにたる木を縦にくくり付けるなどした上、これに化粧ベニヤを張り付けて内壁を作り、(2) 本件土地上にブロックを置き、その上に角材を約一メートル間隔で敷き、これにたる木を約四五センチ間隔で打ち付け、その上にコンクリートパネルを張って床面を作り、(3) 上部の鉄パイプにたる木をくくり付けるなどした上、天井ボードを張り付けて天井を作り、(4) たる木に化粧ベニヤを両面から張り付けて作った壁面で内部を区切って八個の個室を作り、各室にシャワーや便器を設置するという方法により、風俗営業のための店舗(以下「本件建物」という。)を作った。

6  本件建物は、本件施設の骨組みを利用して作られたものであるが、同施設に比べて、撤去の困難さは、格段に増加していた。

以上によれば、Cが本件土地上に構築した本件施設は、増築前のものは、a社との使用貸借契約の約旨に従ったものであることが明らかであり、また、増築後のものは、当初のものに比べて堅固さが増しているとはいうものの、増築の範囲が小規模なものである上、鉄パイプの骨組みをビニールシートで覆うというその基本構造には変化がなかった。ところが、被告人が構築した本件建物は、本件施設の骨組みを利用したものではあるが、内壁、床面、天井を有し、シャワーや便器を設置した八個の個室からなる本格的店舗であり、本件施設とは大いに構造が異なる上、同施設に比べて解体・撤去の困難さも格段に増加していたというのであるから、被告人は、本件建物の構築により、所有者であるa社の本件土地に対する占有を新たに排除したものというべきである。したがって、被告人の行為について不動産侵奪罪が成立するとした原判断は、正当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長 裁判官 福田博 裁判官 河合伸一 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫 裁判官 梶谷玄)

上告趣意書

第一原判決は、最高裁判所の判例と相反する判断をしており(刑事訴訟法第四〇五条二号、三号)、判例違反として原判決は破棄されなければならない。

一1 刑法第二三五条の二所定の不動産侵奪罪は、不法領得の意思をもって不動産に対する他人の占有を排除し、自己の支配下に移す行為、すなわち不動産窃盗に該当する行為を処罰するものである。

したがって、不動産侵奪罪は、目的物が不動産であることからくる当然の異なる解釈は別として、窃盗罪と同じような解釈がとられる必要がある。

2 ところで、窃盗罪の保護法益は、単なる占有権一般ではなく、所有権その他の本権であるであるとする本権説と、単なる財物の占有自体であるとする占有説とに見解が分かれているところである。

そして、大審院判例(大七・九・二五)は、本権説の立場を採っていたが、最高裁判所は窃盗罪の上告事件で、譲渡担保によって債務者たる会社からトラックの所有権を取得したが、引き続き債務者に使用させていたところ、債権者が無断で運び去ったという事案に対して「所論は、不法占有は窃盗から保護されるべき法益となり得ないことを主張するが、当裁判所においては既に大正七年九月二五日大審院判決は変更せられたものであること明らかであり、他人の事実上の支配内にある本件自動車を無断で運び去った被告人の所為を窃盗罪に当るとした原判決の判断は相当である」とし(最判昭三五・四・二六、刑集一四巻六号七四八頁)、物の所持という事実上の状態そのものが財物奪取罪の保護法益であると明確に判示した。

3 窃盗罪の構成要件要素である「窃取」とは、目的物の占有者の意思に反してその占有を侵害し、その物を自己又は第三者の占有に移すことであり、その占有移転につき占有者の同意(承諾)ある場合には窃取行為あるものとは言えない。なお、ここに言う占有者の同意(承諾)とは事前に明示になされたもののみならず、いわゆる推定的承諾も含まれると解すべきである。また、財物の所有者と占有者とが異なる場合にあっては、窃盗罪の構成要件要素である窃取という概念は「占有者の意思に反してとる」という意味に解すべきであるから、この場合も占有者の同意(承諾)があれば足ると解すべきものである(大コンメンタール刑法第九巻二五四乃至二五六頁)。

そして、不動産侵奪罪の構成要件要素である「侵奪」も、目的物たる不動産の占有者の意思に反してその占有を排除し、自己の占有を設定することであるから、その占有設定について、占有者の同意(承諾)がある場合には侵奪行為があるとは言えないというべきであり、不動産の所有者と占有者とが異なる場合にあっては占有者の同意(承諾)があれば足りると解するべきである。

4 ところで原判決は、第一審判決が土地所有者に対して速やかな返還が可能な状態で単なる一時的な使用目的に限り不動産が占有されていたような場合に、そのような土地所有者の意図に反して使用することを目的として、速やかな返還が困難となるような状態に変更して不動産の占有を行ったようなときには、占有の態様が質的な変化を遂げたことにより土地所有者が不動産に対して有する支配を新たに排除したものとして、その占有の侵害があったものと認め、不動産侵奪罪が成立すると解するのが相当であるとして、本件では直ちに撤去可能な屋台の建築のみ認められ、C及びDはこれに従い本件テント小屋での屋台経営を行っていたのに対し、Dから本件土地を借り受けた被告人が、本件土地の所有者の意向に反してでもその使用を続けることなどを目的として、速やかな撤去が困難となる本件風俗店舗を建築したものであるから、これによって本件土地の所有者であるa社の本件土地に対する支配を新たに排除したものといえ、本件風俗店舗の建築によってa社による本件土地の占有を侵害したものと認めるのが相当とし、被告人の所為が刑法第二三五条ノ二の不動産侵奪罪を構成するものとしたことについて同法の解釈適用に誤りがないとした。

しかしながら原判決は本権説の立場に立ってa社の本件土地の占有を侵奪したとするものであり、直前占有者のDの承諾の下に本件土地を賃借し、本件風俗店舗を築造したものであることを看過しているものであり、占有権説の立場に立つ最高裁判所の判例と相反するものである。

すなわち、被告人が本件風俗店舗を構築した時点では、Cのa社に対する使用貸借は継続しており、CのDに対する転貸は、無断転貸ではあるが、土地所有者の承諾は、転貸借の対抗要件に過ぎないものであるから、CとDとの関係では転貸借契約は有効に継続していたものである。

Dは、Cから本件土地の転貸を受けた時に、Cが本件土地について所有者と賃貸借契約を結んでいると信じていた。そして被告人は、Dから本件土地を敷金一五〇万円、一カ月の賃料四〇万円として賃借したが、一カ月四〇万円の賃料額は、検察官請求番号二二番の判決書にあるとおり適正な金額である。

被告人はDから本件土地を兄貴分から借りているとの説明を受け、本当は又貸しが出来ないと聞いたが、賃借を決めるに先立ってDが実際に営業している屋台村を見ており、適法な賃借人と信じたのである。

したがって被告人は、第一審公判廷において「Dが現に商売をしていてそのDから自分は辞めるから何か商売をやってくれと言われ、Dに金を払って借りたから問題はないと思った」と述べているのは当時の自然な気持ちである。だからこそ、被告人は本件土地の使用は自分とDとの間の問題で、土地所有者の意向は関係ないと供述しているのである。

そして被告人は、Dには、本件土地で屋台村とは違う別の業種の商売をしたいと申出、Dからは自分が責任を持つからどんな店でも建てて商売してもらってもよいとの返答を得、SMクラブ用の本件風俗店舗を構築する承諾を得ているものであり、検察官は訴因変更前の公訴事実第一でも「Dの了解の下に」構築したと主張していたものである。

右のとおり、被告人は、本件風俗店舗の構築について、転貸人のDから承諾を得ているものであり、且つDの占有は適法なものと信じていたものである。

したがって、被告人には本件風俗店舗の構築による本件土地の占有が占有者すなわちDの意思に反しているとの認識はなく、占有権説の立場からはDの承諾がある以上、何ら本件不動産の「侵奪」には該当しないものである。

また、仮にDの本件風俗店舗の構築の承諾がa社に対抗できないものであったとしても、被告人はDの承諾は有効であると誤信していたものであり、右錯誤は、侵奪の故意を阻却するというべきである。

したがって、被告人には本件風俗店舗を構築した時には不動産侵害の故意及び不法領得の意思はなかったものである。

二1 さらに、最高裁判所の判例(最決昭四二・一一・二、刑集二一巻九号一一七九頁)は、仮設的な板塀又はトタン塀で囲われた他人所有の空地を、建築資材置場として一時使用していたものが、その塀が台風で倒壊した際、警察の警告を無視して空地の周囲に半永久的なコンクリートブロック塀を築造し、建築資材などを置く倉庫として使用するに至った場合には不動産侵奪罪が成立するとした大阪高等裁判所の判決(大阪高判昭四二・五・一二、高刑集二〇巻三号二九一頁)に対する上告事件で、「本件被告人の行為を不動産侵奪罪に当るものとした原審の判断は相当である」と決定した。右決定はいわゆる事例判例に過ぎないが、被告人のコンクリートブロック塀の築造は警察の警告を無視して強行するという強い意思によるものであり、かつまたコンクリートブロック塀は容易に除去し得ない半永久的な工作物であることが、従前の一時使用の占有態様とは質的に異なった新たな占有を設定したものと判断されたものである。

「侵奪」と言えるか否かの判断基準については、未だ最高裁判所の判例はないが、大阪高裁判決(昭四〇・一二・一七、高刑集一八巻七号八七七頁)は、被告人が隣接する他人所有の宅地にコンクリート製の排水口を設置して、第一審裁判所で不動産侵奪罪の成立を認められた事案について、「如何なる行為があったときにこれを侵奪と見るかについては具体的事案に応じ、不動産の種類、占有侵奪の方法、態様、程度、占有期間の長短、原状回復の難易、占有排除及び占有設定意思の強弱、相手方に与えた損害の有無など総合的に判断して社会通念に従って決しなければならないものである」とし、当該排水口の原状回復が容易であって、空地所有者の受ける損害は皆無に等しいから不動産侵奪罪に言う他人の不動産を侵奪した行為に該当しないとした。

また、東京高裁判決(平一二・二・一八、判例時報一七〇四号一七四頁)は、被告人が東京都の所有する土地に簡易建物を建築するなどして第一審裁判所で不動産侵奪罪の成立を認められた事案について、不動産侵奪罪に言う「侵奪」があったか否かについては右大阪高裁判決と同一基準を示し、「本件簡易建物は本件土地のコンクリート部分や土地部分の上に土台として角材を置いただけのものであって、基礎工事は全くなされていないから、土地の定着物としての面が弱いことは否めない上、その構造についてみても、柱や屋根のほか一部に壁部分もあって、一応風雨に耐え、直ちに倒壊するものではないとはいうものの、屋根や壁に相当する部分にビニールシートといった耐久性に劣る素材を使用し、また、材料は基本的に無償で調達してきた廃材を使うなど本格建築とは程遠いものである。特に、建物の組立につき、ほぞとほぞ穴を使用するなどの強固な建造物を作るための基本的手法をとっておらず、土台の角材と柱、あるいは柱と柱との接合は板を用いて単に釘打ちをする方法でつなげているだけであり、この点でも建造物としては十分なものではないということが出来る。要するに、本件簡易建物は、壁らしき部分が一部にあるとは言え、建物の強固さの観点から見れば、木枠があるだけの建造物に過ぎないものと言ってよい。そして本件簡易建物は解体業者によって約一時間で取り壊されて殆ど跡形もなくなってしまったということも合わせ考えると、本件簡易建物を建てたことによる被告人らの本件土地に対する占有、侵害の態様は必ずしも高度のものとは言い難いところがある。」とし、不動産侵奪罪にいう「侵奪行為」があったと評価することには重大な疑問が残ると判示した。

以上の最高裁決定及び大阪高裁、東京高裁が示した「侵奪」の判断基準によると、建物や工作物の設置による不動産侵奪罪が成立するためには、これらのものが容易に除去し得ない堅固な物であることを要すると言うべきである。

3 ところで、原判決は「本件店舗が堅固且つ半永久的なものとはいえないとしても、元のテント小屋からは、その撤去の困難さが格段に増しているものと認められる」として被告人の本件不動産の「侵奪」を認定した。

しかし、被告人が築造した本件風俗店舗は、本件土地上に土台としてブロックが置かれているだけで、その上に順次、角材、たる木、コンパネを重ね置いて床面とした簡易なものであり、外壁の構築はなく、既存の本件テント小屋の支柱、屋根を利用してボード板、化粧べ二ア板で天井、内壁、間仕切りを取り付けたいわば映画撮影用のセットのような構築物である。

したがって、構築された本件風俗店舗は、外見は本件テント小屋と変わっても、原判決認定のとおり、決して堅固かつ半恒久的な建造物とはなっていない。

そして、Cが当初吉住工務店に構築させた元のテント小屋は、支柱の鉄パイプとして、長さ一メートル、直径四八、六ミリの鉄パイプ三六本をハンマーで四、五〇センチ位地中に打ち込んで、これに同口径の支柱とする鉄製パイプを結束器で固定し、さらに右支柱に同口径の鉄製パイプを結束し、網の目状にトタン屋根を張るための下地を作っている。しかしCは、テント小屋がL字型であったため、Fに依頼し、空地部分に長さ三メートルの一〇センチ四方の鉄製角パイプ四本を深さ七〇センチ位地中に埋めてセメントで固定した支柱を作り、そこへトタン屋根の下地とするため約二〇本の鉄製平角パイプを縦、横に交互に溶接で固定し長方形の施設へと変更した。Fは、この増設工事に職人四、五名かけて、構築作業に三日間要している(検察官請求番号三三番)。

したがって、増設後のテント小屋は、支柱の鉄製角パイプを深さ七〇センチもの地中に埋めてセメントで固定し、屋根下地部分を鉄製平角パイプで溶接して固定した工事により、全体的にかなり強固なものとなり、仮設物の域を超えたものとなっている。

そして、右構築物で一番除去が困難なのは、Cが後から造築した鉄製角パイプを使用した支柱及び屋根下地として溶接した鉄製平角パイプ部分であり、被告人が本件テント小屋を利用して風俗店舗に改造したからと言って、撤去の困難さが格段に増すことはあり得ず、原判決の認定は誤っているものである。

以上、被告人の本件風俗店舗の築造は、最高裁決定及び大阪高裁、東京高裁が示した「侵奪」の判断基準によっても不動産の侵奪行為にあたらないものであり、右判例に相反するものである。

第二原判決は判決に影響を及ぼす重大な事実の誤認、法令の解釈適用の誤りが存し、これを破棄しなければ著しく正義に反することが明らかである。以下、その理由を述べる。

一 重大な事実の誤認

1 第一審判決は、被告人が小銀屋不助産所有の本件土地について、転貸や屋台以外の建築が禁止されているものであることを知りながら、同社の了解を得ないままDから本件土地を賃借した上、Cが本件土地上に構築したテント小屋を利用して風俗店舗用の建築物を建築して風俗店を営むこどを目的とし、仮に本件土地の所有者から立退を求められてこれに応じざるを得なくなった場合には立退料を得ることも考えた上で、平成六年一一月下旬頃から同年一二月一日ころまでの間、木造トタン葺平家建建物(床面積約九八平方メートル)一棟を建築して本件土地を不法に占拠し、侵奪したとの事実を確認した。

これに対し、被告人は、Dから本件土地を転借するについて、法的な意味で本件土地が地主(a社)から転貸借が禁止されていること及び屋台以外の建築が禁止されていることについて聞かされておらず、さらに、地主から立ち退きを求められた際には立退料を得ることを考えて本件土地上に本件風俗店舗を築造したものではないこと、したがって、被告人には不動産侵奪の故意や不法領得の意思はなく、また、被告人が本件風俗店舗を築造した行為は客観的に見ても侵奪に当らないから、第一審判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるとして控訴した。

2 しかし、原判決は、「第一審判決がその掲げる証拠により、被告人に対し原判示不動産侵奪の事実を認定した上、同罪の成立を認めたのは正当であり、又、その『事実認定の補足説明』の項で説示するところも相当として是認できるものであって、当審に置ける事実取調べの結果によっても、右の認定、判断は動かない」と判示した。

そして原判決は<1>被告人は本件土地を転借するに当り、Dから同土地の転貸借や屋台以外の建物の建築が所有者によって禁止されていることの説明など受けてはおらず、その際、Dが「ほんまは、この土地は又貸しが出来まへんねん。」と被告人に話したのは、これによって所有者から転貸借が禁止されていることや、その承諾を得られないことを法的に説明しようとしたものではなく、DがCから「やくざ者を入れたらあかん」と厳しく言われていたため、暴力団組員である被告人に転貸していることをCには内緒にしたいと考えて、被告人にその協力を求めようとしたものである旨、<2>もし真実、被告人がDから本件土地上に屋台以外の建物を建てられないとの説明を受けていたのであれば、屋台とは別の商売をしようと思っていた被告人は本件土地を借りてもいないはずである旨主張した被告人の控訴趣意に対し、被告人はDから説明を受けた際、その転貸借を禁止していた主体がCではなく土地所有者のことであるとの認識を持ったことは明らかであり、また、被告人は転貸借を禁止している所有者の存在を無視してDから本件土地を転借しようとしているのであるから、所有者が屋台以外の建物の建築を禁止していることが本件土地を転借するに当って大きな障害となるものとも考えられないとして排斥した。

3(1)  しかしながら、原判決の右認定は、Dが本件土地を被告人に賃貸するに至った動機、経緯及び被告人が本件土地を賃借するに至った目的、動機を全く無視した不当なものであり、重大な事実誤認が存するものである。

(2)  すなわち、本件土地の使用借者であるCは、平成六年六月頃、本件テント小屋の売上が伸びないため、同人が所属する暴力団b組の弟分のDに、屋台村の営業権を譲るとともに、本件土地をa社に無断で転貸した。Dは賃料について「一〇日に一回の割合で一〇万円を支払っていた」とも「賃料月一五万円の約束で借りた」とも供述しているが、Dが後述のとおり、屋台村の営業で切羽詰まった状態になっていたことから判断すると、Dは、Cから一〇日に一回の割合で一〇万円の支払いを要求されていたと判断するのが自然且つ合理的である。

ところで、CはDに対し、a社に本件土地に対し賃料を払っていると嘘を言って、賃料の支払いを要求したため、Dは、Cが地主に賃料を払っていると思っていた。したがってDは、Cが本件土地に対し、適法な賃借権を有していると信じていたことは明らかである。

Dの屋台村の営業は、その年の夏が終るとすぐに客が少なくなり、Cに対する賃料も払えなくなって二カ月分くらい滞納したことから、資金力のある共同経営者を探そうと思った。

そしてDは、平成六年一〇月頃、暴力団g会の者に共同経営の話を持ち込んだが、それについて、Cにg会の人間と共同で商売したいと相談したところ、Cより「ヤクザものを入れたらやっかいなことになるから、絶対にあかん」と厳しく言われた。そのため、Dはg会の者との共同経営の話はなかったことにしたが、屋台村の営業がやっていける状態ではなかったため、知人のd組e会のHに屋台村を営業する者がいないか相談を持ちかけた。

Dはその後、Hより、借りたい人がいると聞き、Cから「ヤクザものとの共同経営はあかん。又貸しはあかん。」と言われていたが、金がなく生活に困り、Cに対する賃料の支払い、店の電気料等公共料金の支払いなどで切羽詰まっていたことからCに内緒で又貸しすることに決めた。

結局Dは、兄貴分のCから屋台村の営業を押しつけられ、地代として一〇日に一回の割合で一〇万円の支払いを要求され、営業が軌道に乗らないまま資金繰りに窮し、やむを得ず、Cに無断で本件土地を他へ転貸し、賃料を得ることを決意したものである。

(3)  一方、被告人は平成六年一〇月二二日、前刑の刑期を終了して徳島刑務所から出所したが、被告人がやっていた露店商については、服役中に弟のJが実質的に経営するようになっていたため、別途商売をしようと思っていた(被告人の原審公判供述)。

そして、被告人が出所して一〇日位経過して弟のIを通じてDからの本件土地の転貸の話が持ち込まれた。

(4)  被告人は、平成六年一一月上旬、Dと正式に本件土地の賃借の話をする前に、屋台村を見に行ったが、テント張りの薄暗い屋台村を見て、付近も暗く淋しく、このまま屋台村をやってもだめであろう、明るいネオンでもつけた店舗を造り、風俗店でもやればはやるかも知れないと考えた。

被告人はその後、一一月中旬、平野屋でDと本件土地の賃借条件について話合った際、被告人が「ここ屋台村じゃあかん。違う店やりたいやけど、何の業種をやってもかまわないか。」と尋ねたところ、Dは、この土地は本当は又貸しが出来ない旨述べた。そこで、同席していたHが、「又貸しできんかったら、店舗建てるのに金をつこたわ所有者から出ていけ言われたら困るがな」と言うと、Dは「それは大丈夫ですわ。所有者が何か言うてきたら私が責任をもって話しますから、どんな店でも建てて商売してもらってもいいですから。」と屋台村以外の店舗に変更することを了承した。そこで被告人は、安心して敷金一五〇万円、一カ月の賃料四〇万円として、本件土地を賃借することとした。

そして被告人は、Dから右賃借に際し、本件土地は兄貴分から借りているとの説明を受けたが、その兄貴分がCであること、地主が誰であるのかについては全く聞かされていないが、Dが適法な賃借人であると思っていた(被告人の第一審公判供述)。

被告人は、事前にDが実際に営業している屋台村を見に行き、第一審公判廷で供述するように、Dが本件土地を適法に借りていると信じていたのは無理のないところである。

そしてDは、平成六年一一月末頃、被告人から屋台村と違う業種として「SMクラブをやる」旨聞き、これを了承した。

(4)  右のとおり、DはCから賃借した本件土地での屋台村の営業が軌道に乗らないまま資金繰りに窮し、本件土地の転借入を探し、被告人に転貸するに至ったが、Cから「ヤクザものを入れたらやっかいなことになるから絶対にあかん」と言われていたため、Cに対して被告人に対する転貸を隠す必要があった。そのために、Dは、被告人が新しくやる店の店長を表向きDの下で働いていることにすること並びに店の名前を「遊食館」のままにしておくことを提案したのである。

したがって、Dが述べた本件土地について「ほんまはこの土地は又貸しができまへんねん」との意味は所有者(a社)から転貸借が禁止されているとか、地主の承諾が得られないという法律的な説明をしたのではないことは明らかなことである。

また、被告人は本件テント小屋を利用して本当に商売をする気で、本件土地の転借を受けたものであり、Dから真に所有者から本件土地の転貸借が禁止されているとか、本件と地上に屋台以外の建物を建てられないとの説明を受けていたのであれば、多額の敷金や賃料を支払ってまで本件土地を借り受けることはあり得ないことである。

原判決は、D、K、Hらの検察官又は警察官調書で被告人とDとの交渉の経過の中で同人が被告人に所有者から本件土地の転貸借が禁止されている旨説明したことについて一致して供述しているとして、被告人としても、転貸借を禁止していた主体がCではなく土地所有者のことであるとの認識を持ったことは明らかであると認定するが、Dが本件土地を被告人に賃貸するに至った動機、経緯及び被告人が本件土地を賃借するに至った目的、動機からすると、原判決の右認定には重大な事実誤認があるものである。

4 さらに、原判決は被告人が仮に本件土地の所有者から立退を求められたときは立退料を得ることも考えて本件風俗店舗を建築して本件土地を不法に占拠し、侵奪したと認定するものであるが、これも重大な事実誤認である。

すなわち、被告人が本件土地を転借した動機、目的からしても本件土地の所有者から立退料を得ることを考えることなどあり得ないことである。しかも原判決が右認定をした根拠とするKの検察官に対する供述は、第一審判決がKの右供述についてその変遷内容などからすると、検察官の誘導に従い、あるいはこれに迎合するなどして供述をしているのではないかと疑われる部分もあると指摘するとおり、Kは何が被告人に不利益であり、何が利益であるか分からないまま、検察官の誘導に従い、迎合的な供述をしているものであり、原判決はKの供述調書の価値判断を誤っているものである。

三 法令の解釈適用の誤り

被告人のなしたCが増築した本件テント小屋を利用した本件風俗店舗の構築は、前記のとおり本件土地に対する「侵奪」に該当せず、また、被告人には不動産侵奪の故意及び不法領得の意思がないのであるから、被告人の所為が不動産侵奪罪を構成するとした原判決は刑法第二三五条の二の解釈適用を誤ったものであり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかである。

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